第132回 管理の受託の仕方を考える
受託時の収支システムを見える化
「管理戸数主義」から「利益至上主義」への転換図る
前月の連載では、「管理を離す」という少々センシティブなテーマを扱った。
弊社はここ2年くらいで採算の悪い物件を1,000戸以上手放したのだ(現在の総管理戸数は6,718戸)。
それもあって、今年は至上最高の稼働率、98.4%(東京23区内)を達成した。
そこで、管理を離したほうがいい場合の①番目として、「物件ごとの収支が悪い、もうからない」という理由をあげた。
しかし、そもそも管理受託の際に収支が悪い物件を受託するのがいけないのだ。
営業担当が管理受託の契約をする際には、営業なのでノルマもあるだろうから、どうしても契約したいという気持ちが先走り、前のめりになることがある。また、クライアントに無理をしてくれ、と言われて断れないような状況もあるだろう。
営業に歩合制度があったりするとその「前のめり」感はもっと強くなる。
弊社はもう数年前にほぼ歩合制度は廃止したが(多少のインセンティブはある)、以前は悪くいうと「会社が少々儲からなくてもいい、自分の成績はよくして歩合をもらいたい」と思っているのではないか、と疑ってしまうようなことがあった。
よって、管理受託営業の際に、この物件は会社に利益を与えるものなのかどうかを見極めてから契約する、という仕組みを作ったほうがいい。
現在、弊社は管理受託をする際には、物件ごとに予想収支を出して確認して、それから契約の承認が下りるというシステムになっている。
これは実は大きなテーマと言える。
つまり弊社は、以前は「管理戸数至上主義」、もっと言えば「売上至上主義」に走っていたと言え、経営の本来である「利益至上主義」にならなければいけないという警笛なのだ。
このことは我々賃貸管理会社はもちろん他業界でもしばしば陥ってしまう罠だと思う。
つい、契約が取りたくなる。しかし、「儲からない仕事は受けてはいけない」のだ。
「管理戸数ランキング」なるものがあるからといって、管理戸数を伸ばすことが至上命題のように思ってしまってはいけない。管理会社は戸数そのものに意味があるのではない、その内容が大事なのだ。
表①は、弊社の「物件収支計算書」である。
営業担当はここに、平均賃料や戸数、月次管理料率、想定の空室率、解約率等を入力する。すると、まず自動的にA売上高が算出される。
弊社はすべて転貸借(マスターリース)方式を取っているので、賃料収入がそのまま受け取り住宅家賃として売上になる。
一括借り上げ(いわゆるサブリース)を行っているところは同じである。そして、月間、年間のB粗利益が算出される。
一番大きいのははやはり月次管理料だ。粗利益額の52.2%を占めている。
仮にこの管理料を5.5%から3.3%に減額すると、一気に営業利益は減って、214,643円が19,494円なってしまいほとんど儲からないことがわかる。
管理受託の営業時に安易に管理料をまけてはいけないのだ。
首都圏では、更新料(弊社の場合は定期借家権運用なので再契約料)収入があったりする。
ここは営業エリアや商習慣、会社の事業戦略によって左右される。
Cの当社経費は、会社によって違うだろう。これは販管費を戸あたりで計算する。
すると管理受託営業をしている物件の年間のD営業利益が想定される。
あとは、A売上高に対して最低でも◯%以上の営業利益率がなければダメだ、というルールを会社で作ればいいのである。
また、今回営業利益率は低いが「営業利益額」は大きいので管理を取得したいとか、やはり様々な理由で営業がこの物件の管理を取りたいと上席に言ってくる。それは稟議判断するということだ。
こういう仕組みを作っておけば、営業が勝手に収支の悪い物件を取ってくるということはなくなる。
また、これは賃料が低い物件の場合、当然に営業利益は落ちてくる。
販管費はどんな物件でもそれほど変わらないからだ。
その場合は、月次管理料を上げてクライアントに提案しなければいけないということがわかってくる。
この収支表は、管理会社というものが、どこで収益を上げているのかが一般社員にもよくわかっていい。
ところで、「稼働率の定義」の話しをしたい。
弊社は今期98.4%になったと私は自慢しているが、世間には、うちは99.5%ですとか、この前タクシーに乗ったら99.8%ですというような広告を見たが、嘘をついてはいけない。
入居者の解約率にもよるが、大体20%~25%であろうから、空室率2%は空室期間1ヶ月分に相当する。
99.8%ということは空室率0.2%。つまり、空室期間はたった3日しかないということだ。
賃貸借契約が終了して退去して、3日間で内装クリーニングをして、その間にリーシング営業で申し込みが入り、賃貸借契約の始点が4日目からになるということだ。ありえない。
99.5%も同じように空室期間が1週間ということだ。
これは、おそらくまだリフォーム中のものは分母分子から省くとか、募集していないものは省くとか、「管理会社の目線」で計算をしてはいないだろうか。
不動産オーナーからみてリフォーム中だろうが募集中だろうが、そんなことは関係なく空室期間とは「賃料が発生していない期間」で間違いないだろう。
つまり、賃貸借契約が存在していない期間のことだ。
「稼働率」は管理会社にとって一番重要な指標であり、その会社の実力を測るものさしだ。業界で、正規な定義をしっかり定めるというか、告知をしたらどうか。
藤澤 雅義(Mark藤澤)
アートアベニューの代表取締役であると同時に、全国の賃貸管理会社を支援するコンサル企業:オーナーズエージェント株式会社の代表取締役も務める。
しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。
あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。